コンテスト持論

私ほどマジックのコンテストに参加したマジシャンはいないだろう。
その経験をもとに17年ほど前「コンテスト持論」を書いた。
あるマジック雑誌の数ページを埋めるために依頼されて書いたものだがこれを読んでコンテストに
参加する事を決めたという若者が何人もいた。
今文書を読むと現代の考えに合ってない部分もあったので少し手を加えて再度掲載してみることにした。
現代の若いマジシャンは昔より積極的でテクニックもすごいがこれを読んでコンテストに挑戦してみようという若者が一人でもいればいいと思う。

1.コンテスト参加を勧める理由

①コンテストはマジックの友達をつくる
私がマジックのコンテストに出ようかどうか迷っていた時ある先生に
「友達をつくるつもりで出場しなさい」と言われ出場することになった。

マジックのコンテストがこれほど緊張するものだとは思わなかった。何回トイレに行ったことだろう。手は汗ばむし、頭の中は真っ白だし、心臓の音が聞こえるし。
いよいよ私の出番。中盤まで結構ウケていたが途中で道具を舞台袖に忘れてきたことに気がついた。演技の途中で取りに行ったがテンションは下がりっぱなしであった。

しかし、コンテストの後で沢山の人が「コンテストに出てたね。よかったよ。」「面白かったよ。笑顔が良かった」など言われ友達ができたのである。
今から考えればお世辞だったのかもしれないが、参加して良かったと思った。

②マジックが上達する

コンテストに出れば練習せざるをえない。
結婚式やボランティアでやるための練習とは違うのである。

③結果がハッキリする

私は体育会系なので練習は試合に勝つためにあるものと思っている。
マジックをやれば「良かったですよ」と言ってくれるがどの程度なのかわからないしほとんどはお世辞である。
その点コンテストは自分の演技は何点で何位とハッキリ数字で出るので目標を立てやすい。

2.申し込み

①申し込み時期と順番

さて出場するコンテストが決まったら申し込みをしなければならない。
出場人数が決まっているコンテストは締め切られる前に申し込みをする必要があることは言わずともわかっていると思うが申し込みの時期も考慮する必要がある。
というのは申し込みの順番が出場順になってしまうコンテストがあるのだ。そのようなコンテストで順番が早いほうがよいという人は早く申し込めばよい。但し、中から後ろの順番がよいという人は注意が必要である。

しかしコンテストの順番は審査にはあまり関係ない。
もし、順番の損得があるとすれば順番が早ければ

・他のコンテスタントとネタがダブった場合は有利
・ゆっくりかたづけて他のコンテスタントの演技を観ることができる。
・長い時間緊張して待たずに済む。
という利点があるが逆に

・コンテスト前のイベントを抜け出したり、朝早く行って準備する必要がある。
・開始が朝早かったり、前のイベントが延びていたりした場合コンテストの最初と最後では客数が違っていることがある。
という不利なこともある。(ですからコンテストの順番は抽選で決めていただきたいと主催者にお願いしたいのである。)

②申し込み時の確認

このほか申し込む際に制限時間、火気の使用、ライトの調整(ジャリを使用する場合等)、舞台の大きさ等気になることは確認すべきである。事前にビデオ審査が必要な場合もあるのでご注意を。

3.手順の作成

①手順構成のポイント

さて、演技の手順を考えなければならない。コンテストによって多少基準は違うが演技30点技術30点オリジナリティー30点客の反応10点というのが多い。
(現在のFISMの基準はもっと細かいが基本的に人間が審査するのでさほど変わらないだろう。)
この項目を万遍なく得点すれば自然と高得点になる。
まず、スライハンドは必ず取り入れた方がよい。技術点を取りやすくなる。
技術点のポイントは無理なことはやらず120%できることを確実にやることである。
このほうが審査員に好印象をあたえるしミスは大きく減点されるからである。

オリジナリティーは本当にだれも見たことのないマジックができれば最高だがそこまでアイディアが浮かばない場合は自分なりのキャラクターを生かした演出や手順を考える必要がある。

売りネタをそのまま使ったり、他のマジシャンのコピー(もちろん発表された手順)をそのまま演じてはいけない。
きちんとした手順とは赤いボールが白いボールに変化し、白いボールが白いハンカチになり白いハンカチからハトが出てくる。というように現象につじつまのあった手順のことである。これが最初にこれをやって、次はテーブルから全く関係のない道具を持ってきて演じるようなことではどんなに上手に演じても高得点は期待できない。
エンディングは、これでマジックが終わったなーとお客様に伝わるような現象がよい。必ずしも派手な現象や大きな物を出すことがよいエンディングではない。

②散らかさない

また、無意味に舞台を散らかさないようにすべきである。特に紙吹雪は掃除するのに大変時間がかかり次の演技者に迷惑である。どうしても使いたい場合は大きなシートを持参してその上に散らかすべきである。散らかすことは練習効率も悪くなり、練習場所も選ぶ必要があるので考えるべきである。

③ジャリ

ジャリを使う場合は照明に影響される(光るのである)のであまりおすすめできないが照明係に頼んでみよう。但し舞台が全体的に暗くなってしまうことを覚悟すべきである。

④火気

火を使うマジックは火事にならないように注意すべきであることは常識だが、コンテストをみると火のついたフラッシュペーパーを床に投げつける演技者を見かけるが、必ず空中で燃え尽きさせるか、安全なものの上で燃やすべきである。

もし、火事になった場合(些細な事故でもだが)そのステージで二度とマジックをさせてもらえない可能性がある。少なくともそのステージで火は使えなくなるので他のマジシャンに迷惑である。そのことを十分考えて使用し、消防用の水や消火器の確認等は必要である。

出番前にオイルの調整をする必要がありかなり神経を使うし、気温や空調の関係で火がつかないことが結構多い。場所によっては火を使えなかったり、消防署の検査が必要な場合がある。この消防署の検査が結構面倒でステージがある地区の消防署にわざわざ出向いて道具を見せ安全であることの証明をしなければならない。(消防署の方はマジックをご存知ないのでかなり大変。タネを見せなきゃならないし)

以前FISM予選のコンテストで私が使う道具の説明に3時間ぐらいかかったことがあり、奇術協会の担当の方に大変迷惑を掛けたことがあった。

可能であれば火は使わない方向で手順を構成することをお勧めする。

⑤音楽

音楽の媒体はトラブルに備えて複数枚、複数媒体(CD、MD、最近だとパソコンに取り込めるUSBメモリなど)を用意する事が必要である。
もちろん余計な曲は入れてはいけないし媒体には自分の名前を記載する事は言うまでもない。
(海外のコンテストの場合はもちろんローマ字表記)

⑥制限時間

クロースアップは制限時間に注意しよう。ステージは音楽の時間が決まっているのでタイムオーバーはあまりないがクロースアップは言葉やお客様とのやりとりで時間が変わってしまう。練習はストップウォッチで常に時間を計り常に制限時間の30秒以上前に終わるようにすればトラブルにも対応できる。

⑦クロースアップの見せ方

クロースアップコンテストとはいえ100人以上の観客に見せる場合サロンの要素が必ず必要になってくる。テーブルの上に置いた物は立体的な物でも後ろの人には見えない。テーブルの上に置いたカードは最前列の人しか見えないと思ってよい。
現象は手に持ってできるだけ高い位置で起こす方がよい。できるだけビジュアルなマジックを取り入れた方がよい。

⑧直前のアイディア

コンテストの数日前に新しいアイディアが生まれることがあるが今回はあきらめよう。直前に変えても十分な練習をしてない手順はやるべきではない。

4.練習方法、ポイント

演技は練習をビデオにとってチェックする。鏡でみるのと違って客観的に演技を見ることができるのである。演技のポイントをいくつか指摘しよう。

登場していきなりマジックを始めないこと。いきなり始める場合はその後間を取ること。まず自分の存在をお客様にアピールし「私はお客様を愛している」という笑顔で自分をお客様に受け入れていただくことが必要。
動作はゆっくりと行う方が見やすい。速い動作の場合でもきちんと動作を止める箇所をつくる。現象が起きている方の足に体重をかける。たとえば右手でカードを出している場合は右足に体重をかけてバランスをとるのである。試しに逆の足に体重をかけて演技してビデオで見てみるとわかる。とてもみっともない。
クロースアップでは後ろのお客様に聞こえるように声を出そう。一流のクロースアップマジシャンは常にはっきりと声が聞こえる。ふつうに話をしていて声が通ることが理想だが最初は大声を出すぐらいのつもりで発声しよう。

5.当日

①忘れ物

さて、いよいよコンテスト当日、忘れ物をしないようにチェックをする。チェックシートを作ることが望ましい。練習で使った道具をそのままバッグに入れたりすると忘れ物をしやすい。
まず、音楽テープ、MD(これを忘れるとどうしようもない)化粧品、アクセサリ、本番用シャツ、ライターオイル、備品(はさみ、セロテープ等)など忘れないように注意する。
そして部屋を出る前もう一度入れ忘れがないか部屋を見回す。

②リハーサル

コンテスト打ち合わせ時間には遅れないようにする。たとえ何も打ち合わせすることが無くても必ず行く。参加しないと失格になることが多い。そのときに必ずキューシートを作成し持っていく。これはスタッフが音響、照明、幕などのタイミングを間違えないようにするために必要である。
コンテストは何十人もの演技がいっきに行われるためノーリハーサルが基本である。よって複雑な要求をすることはできないし、危険である。スタッフへの作業はできるだけシンプルになるようにキューシートを作成しよう

キューシートで記載が必要なポイント
オープニングの幕、音響、照明、登場の順番の記載
(1)幕オープン
(2)照明ON
舞台は全照でピンスポットがあれば演技者を追ってください。
照明は基本的にエンディング直前までこのままでお願いします。
(3)音楽スタート。
テープは一本で約7分30秒です。音の大きさがOKであれば
以降いっさいの操作は必要ありません。
(4)演技者が上手から登場します。

大まかな演技内容ときっかけ

(5)前半はカードです(約3分)
(6)カードの演技が終わると音がいったん止まりますが終わりではありませんので
そのままにしてください。照明もそのままにしてください。
(これを書かないとここで音や照明を止められる可能性がある)
(7)後半のハンカチのマジックです。

エンディングのきっかけ

(8)エンディングはハンカチがたくさんわき出るマジックの後大きな旗を出してポーズを
取ります。
そのときに音が自動的に止まりますので照明を暗転にしてください。
(エンディングのイラストや写真があるとベスト)

打ち合わせ時には音楽媒体と主催者指定フォーマットのキューシート3部(音響、照明、舞台)
筆記用具のほかエンディングの道具も持っていって説明するとよい。
音は出るかどうかを必ず確認する。

③楽屋

コンテスタントは平等なので楽屋の上座下座と言うのはないが順番が速い人から出やすい場所を使うようにしよう。そして場所を占領しないように限られたエリアでセッティングし使わない物はカバンにしまうか、整理整頓しよう。

6.本番

①出番前の緊張

いよいよ、コンテストという段階になると緊張してくる。これは誰でも同じである。と思ってよい。
緊張をほぐすために柔軟体操をしよう!!これだけで筋肉の硬さがとれてかなり楽になる。
緊張で手が汗ばむ可能性があり影響が出る。
薬局でパウダーを購入し手にまぶして汗を調整しよう。
「勝つのではなくお客様を楽しませるのだ」という気持ちを待とう。そして速やかにセッティングできるように準備しよう。

②演技中の緊張

さて演技スタート。
後はもうやるしかない、が緊張で手がふるえている場合は意識して力を抜いてみよう!!ふるえが止まるはずである。

③演技後

さあ、うまく演技できただろうか?
失敗したら、それはスタッフのミスを含めてすべて自分の責任である。
次のコンテストで同じミスをしないことである。
演技が終わったら速やかにかたづける。
散らかした場合はとりあえずほうきで掃く等をして次のコンテスタントの迷惑にならないようにしよう。
友達が来ていればかたづけを手伝ってもらおう。(1人で簡単にかたづけられるように手順や道具を考えるのがベスト)そして、スタッフにお礼を言おう。
スタッフなしでは演技はできない。裏方様は神様である。

④審査員からのアドバイス

発表後、審査員にアドバイスをいただこう。
審査結果説明会がある場合は必ず参加し、ない場合は審査員を捕まえて聞いてみよう。
もちろん丁寧にうかがいお礼を言おう。(コンテストの審査は重労働である。審査員に感謝。)

7.あとがき

ざっとコンテストについて書いてみたがいかがだろうか。
とにかくはじめの一歩が大切。最初のコンテストでは入賞はできないと思った方がよい。それでも一度出場してしまえば後は気楽に申し込みできるでしょう。もう一度言うがコンテストに参加すると友達を作りやすい。これはトロフィーよりも大きな財産ではないか。

 

 

 

 

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